若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 カナトの茶化すような問いかけに、マツリカは既視感(デジャ・ヴュ)を抱く。

 十五年前。シンガポール。夏。海水浴。
 自分が泳ぐ姿を人魚みたいと口にしてくれたお兄さん。
 しょっぱい記憶。溺れた人魚は「彼」が助けてくれた。バパじゃなくて。
 それからふたりで見に行った、「とっておきの場所」。
 夕暮れとともにライトアップされたタンカービュー。
 その、ロマンチックな情景は「誰」と一緒に見たんだっけ……?
 そして「彼」はマツリカに何か大切な言葉をくれた気がする。
 それが嬉しくて、マツリカは素直に頷いたのだ。大切な約束。
 ――しょっぱいキスとともに。

「!?」
「マツリカ?」
「……思い出した、かも」

 スコールが降ったあとの夕暮れ時。ふだん行かない海水浴場に行って、無様に溺れたマツリカは、そのとき近くにいたハイスクールのお兄さんに助けてもらったと思っていた。はなしをきいたら自分とふたつみっつしか年齢が離れてなくて、しかも彼の正体は……

Anak(アカ) raja(ラジャ) perkapalan(パカパラィ)――あのときの海運王の息子、よね?」
< 213 / 298 >

この作品をシェア

pagetop