若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 その一方で、カナトは彼女が疲れて眠っているあいだに仕事もしっかりこなしていた。王氏のもとへわざわざ彼が赴いたのも、マツリカに休息の時間を与えるために気遣ってくれたのだろう。

「挨拶をしただけだよ。マツリカが心配することはなにもない」
「そう?」
「いわば保険さ。万が一のための」

 首を傾げるマツリカの前で、カナトはどこか切なそうな表情を見せる。

 ――王氏からの情報が正しければ、彼女は東京に到着したらすぐにマイルのもとに連れていかれてしまうだろう。無理矢理結婚させるために。そのことについて城崎清一郎は危惧はしているが隠居を宣言した身の上ゆえに会社のことはノータッチとされる。マイル自身は規模を巨大化させたいがゆえに裏でかなり無茶なことをしているという噂もある。裏がとれれば告発なりなんなりして彼をすぐにでも退けられだろうが、尻尾を隠している彼を誘き出すのはそう簡単ではない。マツリカにこのことをはなしたら自ら囮になると言い出しそうだから黙っていたいけれど……
< 253 / 298 >

この作品をシェア

pagetop