義弟が『俺、異世界賢者の転生者だ』と言い出した【中編】
 和樹の言う通り、召喚魔法だとしたら……私、私……。
「和樹っ!助けて……!」
 やだ、異世界に行きたくなんかない!
 日本が好き。
 異世界転生だとか異世界転移だとか、異世界に行く小説が好きで、異世界同好会に入ったりもしてるけど、でも、いやだ!
 一人で異世界になんて行きたくなんかない!
「くそっ。ふざけやがって……。白の大賢者をなめるなよっ」
 和樹が光を放つ魔法陣に触れる。
 床には光の粒子が集まって、文字なのか記号なのかわからないものが魔法陣に次々と書き込まれていて……。
 そこから天井へと光の柱が伸びていく。それがどんどん濃くなってきて……。
 これ、光に包まれたら、もう次の瞬間には異世界っていうやつ?
 やだ!
「和樹ぃ……」
 怖い。
 怖い!
 和樹の姿が、薄い光の向こうに見える。
 やだよ。
 瞬きするのが怖い。
 もし、目をつむったら……次に目を開いたときには、もう和樹の姿が見えないかもしれない。
 太い石柱の並ぶ神殿にいるかもしれない。石造りの城の地下室、はたまたモンスターがあふれるダンジョンの中。
 神のいる何もない空間、魔女の森……。
 どこに連れていかれるのっ!
 魔法にあこがれたことはあるけれど……でも、いやだ!
 行きたくないよっ!
 光が強くなってきた。
 ああ、あとどれくらい私はここにいられるのだろう。
「和樹……」
 大好きだよ。私のかわいい弟。
 お姉ちゃん……異世界に行っても、和樹のこと忘れないっ!

■21

 光の向こうの和樹の顔がしっかりと見えるように座り込んでいる和樹の顔の高さに合わせて座る。
「はっ、未熟な魔法だな。術式に無駄が多い」
 和樹の目は、私を見ていない。
 床に現れた魔法陣から目を離さず、何やらぶつぶつと言っている。
「使いきれない魔素が漏れ出している。馬鹿め!魔素さえあれば、俺は無敵だ!」
「和樹?」
 魔素?
 和樹、お姉ちゃんに顔を見せて。
 本物の魔法陣を見て楽しいのかもしれないけど、もう、私、最後かもしれないんだよ?
 帰ってこられなければ、もう、会えないかもしれないんだよっ!
 そこから、和樹は私にはわからない言葉を口にしだした。
 え?
 魔法陣の光の文字を和樹がなでる。なでた部分から、別の文字に代わっていく。
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