アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
「では、どうぞよろしく、ユリ」

 手を差し出す彼に、私も手を差し出す。

 その手を引き寄せて彼が頭を下げた。

「では、参りましょうか」

 ジャンがさりげなく腕を回してくる。

 思わずのけぞってしまいそうになる私に彼が微笑みかける。

「こわがらないで。ユリは僕の恋人でしょう?」

「えっと、まあ、そうですけど……」

 お芝居とはいえ、いきなりうまくできるわけない。

 私、どうしたらいいんだろう。

 ジャンの歩幅に合わせて歩くのが精一杯。

 ムリムリ、私には無理!

「大丈夫? シャンパン一杯なのに酔ったかな」

 膝が崩れそうになる私を彼が優しくエスコートしてくれる。

 でも、恋人というより、なんだか警察に連行されてるみたい。

 おかしいな。

 そんなにお酒が弱いわけじゃないのに。

 顔も熱くて鼻の頭に汗がにじみ出てきちゃってる。

 雰囲気に酔ってるんだよね、私。

 恋人か……。

 気づかれないようにそっとため息をつく。

 本当はこれが演技じゃなければいいのに。

 私だってそう思うのに。

 ホント、演技じゃなくてもいいの。

 でも……。

 私には無理。

 恋なんて無理。

 ジャンに寄り添いながら私はもう一度ため息をついた。

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