極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 繭は諦めのため息を落とす。慎太郎はこう見えて頑固で、『依頼人の希望が最優先』という信念は絶対に曲げない。経済的に困窮している依頼人だと、実費のみの報酬ゼロで弁護を引き受けてしまうこともしばしばある。

(そこがタロ先生のいいところなんだけど)

 なんだかんだ言っても、繭は慎太郎を尊敬している。地位も名誉も報酬も度外視で依頼人のために尽くすなんて、そうそうできることではない。

「あ、そうだ。繭ちゃん、この申込書を弁護士会館に届けておいてもらえるかな? 実は締切、三日前なんだけど……」
「また締切を忘れてたんですか? まったくもう」

 前言撤回だ、心のなかでそう思いながら、繭は書類を受け取る。

「今日はそのまま直帰でいいよ。旬太くん、病みあがりなんだろ」

 慎太郎は気遣うような口調でそう言った。
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