彼と私のお伽噺

「……っ、ふ」

 私の後頭部を押さえつけて引き寄せた昴生さんが、薄く開いた唇を割って舌を絡めとる。初めての、熱くて深い、激しいキスに、座っているのに腰から砕けそうだった。

 助けを求めるように昴生さんのニットの裾を引っ張ると、唇を離した彼が、私の額にコツッと額を押し付けて、ふっと笑う。

 唇を塞がれていた私は息も絶え絶えなのに、余裕げに微笑む彼の呼吸は少しも乱れていなかった。

「こっちは、最初にプロポーズしてからもう五年も待たされてんだよ。咲凛の決断を待ってやるのは最高でも一ヶ月。それ以上グダグダ考えるつもりなら、もう待たねーから」

 そう言って私の頭をグシャリと乱暴に撫でると、昴生さんが私から離れてリビングを出て行く。

 ダイニングルームとひと続きになっている、だだっ広いリビング。そこに、婚姻届とともに残された私は、この短時間のうちに起きた出来事を処理できずに放心状態になっていた。

 最初のプロポーズって……? 五年も待った、ってどういうこと?

 もしかして昴生さんは、五年前に祖母を亡くした私を拾ってくれたときから、そういう意味で私をそばに置いてくれていたの……?

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