彼と私のお伽噺
「この五年間、俺が学費や生活費の面倒を見てやった見返り目的だけでお前のことそばに置いてたと本気で思ってんのか?」
眉間を寄せて唇を横に引き結んだ昴生さんは、かなりの不満顔で私のことを斜め上から見下ろしていた。
昴生さんの黒褐色の瞳に貫くように見つめられて、ドクドクと胸が騒ぐ。
「あ、の……」
何か言わなければと口を開いた私の肩に、昴生さんが手をのせた。大きな手のひらに押さえ付けるようにつかまれて、緊張と驚きで呼吸の仕方がよくわからなくなる。
「好きじゃないなんて、そんなこと一度も言ったことないだろ」
「へ?」
間抜けな声を漏らした私に、昴生さんが顔を近付けてくる。
「え、コウちゃん、近……」
今までにないくらいの至近距離まで迫られてパニックを起こす私の唇に、昴生さんの唇が触れる。
即座に何の反応もできずに固まっていると、最初は確かめるように触れただけだった彼の唇が、私を貪るみたいに食い付いてきた。