彼と私のお伽噺

 嘘だ。そんなの、全然信じられない。

 出会ったときからずっと私のことをパシリ扱いしたり、家政婦扱いしてきて意地悪だった昴生さん。

 自分勝手で横暴なオレ様な彼は、私のことを体の良い下僕程度にしか思っていないと思ってた。

 それがまさか……。

 たった今交わした昴生さんとのキスを思い出すと、心臓がバクバクと鳴る。

 昴生さんに婚姻届を突きつけられたときは、人の気も知らないで酷いやつだと思ったけれど。まさかの嬉しい誤算だった。

 私だって、この五年間の昴生さんとの生活を何も考えずに過ごしてきたわけじゃない。

 もちろん、学費や生活費を工面してもらった恩は返したいと思っていたけど、私が彼のそばにいた理由は純粋な恩義の気持ちからだけではなかった。

 子どもの頃から意地悪だけど、私が本当に困ったときや悲しいときに一番近くにいてくれたのも昴生さんだった。

 私は傲慢で自分勝手で、たまに優しい、綺麗な顔をしたあのひとのことが、昔からずっと好きなのだ。

< 18 / 105 >

この作品をシェア

pagetop