彼と私のお伽噺
「返事は一ヶ月待ってくれるんじゃないんですか?」
「最大でな。でも俺、あんまり気が長くないんだよな。どうせサインするんだから、今日でも一ヶ月後でも一緒だろ」
ベタベタと甘えるようにくっついてくる割に、昴生さんの物言いは偉そうだ。
どうせ……、って。
きっと昴生さんは、私が婚姻届へのサインを拒否する可能性を一ミリも予想していないのだ。
実際に、最後は昴生さんに押し切られてしまうのだろう。そう思うと、少し悔しい。
「昴生さんが一ヶ月って言ったんだから、期限ギリギリまで考えます。昴生さんは、私にフラれてひとりぼっちでニューヨークに行く覚悟も決めといたほうがいいですよ」
「誰が誰にフラれるって?」
昴生さんの表情が、不機嫌そうに歪む。
あまり逆らうと本気で怒らせそうなので、それ以上余計なことを言うのはやめておくことにした。
いつまでたっても離れない昴生さんのことを背中にくっつけたまま、お弁当箱をナプキンで包む。
「はい、お弁当できましたよ」
「ん」
短く返事をした昴生さんは、まだ私の背中にくっついたままだ。
今朝の昴生さんは、本当に様子がおかしい。