彼と私のお伽噺

「昴生、矢木さんの昼休みはあと十分だから、手短かにね」

 だけど戸崎部長はそう言ってニヤリと笑うだけで、私を助けてくれそうもなかった。


「黙れ、戸崎」

 昴生さんも昴生さんで、戸崎部長に子どもみたいな悪態をついて、私をオフィスビルの中へと引っ張っていく。

 ズルズルと私を引きずるようにして玄関ホールを歩き抜けた昴生さんが、エレベーター横にある非常階段の扉を開けて、その向こうに私を押し込む。

 それから自分も後に続いて入ってくると、私を非常階段の壁際にドンッと追い詰めた。


「30秒だけ弁解させてやる。戸崎とふたりで何してた?」

「だからそれは————、んっ」

 弁解しようとしたら、30秒どころか10秒も待たずに昴生さんが私の口をふさいだ。


「昴生さん、私、弁か、い————」

 ちゃんと話を聞いてもらいたいのに、私が話そうとする度に、昴生さんが唇を押し付けて邪魔をしてくる。

 弁解させてやる、と言ったくせに。昴生さんには初めから、私に言い訳させるつもりなんてないらしい。

 昴生さんが、私の両手首をつかむ指に力を込める。

 両手首を壁に縫い留められて動けない私は、執拗に吸い付いてくる彼の唇に抗うことができなかった。

 強引に唇を割って入ってきた昴生さんの舌先が口内を掻き回して、絡めとった舌をジュッと吸い上げる。誰もいない非常階段とはいえ、オフィス内にいることに変わりないのに、昴生さんの激しいキスに腰から砕けそうになる。

 やっとキスから解放されたときには、膝がガクガクとしてひとりで立てないほどになっていて。昴生さんは、そんな私を力任せに抱き寄せた。

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