彼と私のお伽噺

「誑かすなんて、人聞きの悪いこと言うなよ。最初っからふたりきりだったわけじゃなくて、ついさっきまでは山里さんっていう女子社員も一緒だったんだから。ね、矢木さん」

「あ、はい」

 戸崎部長に同意を求められて頷くと、昴生さんが苛立った様子で舌打ちをする。


「咲凜、ちょっと来い」

 昴生さんが不機嫌な声でそう言って、私の手をつかむ。

 そのまま、オフィスビルの入り口へと真っ直ぐに突っ込んでいこうとするから、ひどく焦った。

 営業課長の昴生さんが総務部の新人である私なんかの手を繋いで社内を歩いたら、確実に周囲から変に思われる。


「ちょ、ちょっと待ってください。なんですか、いきなり」

私の手を引きずっていこうとする昴生さんに抵抗すると、彼が「黙れ」とばかりに睨んできた。


「来い、って言ってんだよ」

「いやですよ。だって、ここ、会社ですよ?」

「だから?」

「だから? じゃなくて。周囲から妙な誤解をされたくないので、離してください」

「どうして俺がお前に指図されなきゃいけねーんだよ」

「だって……!」

なんて横暴なんだ……!と思いながら、助けを求めるように戸崎部長のほうを見る。

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