冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~

18 サキュバスとインキュバス


「なにをおしえてくれるの?」

 ティララは不安に思う。

 だって、サキュバスたちって淫魔でしょ?
 六歳の幼女に教えられることなんてあるのかな?

 変なことを教え込まれてはたまらない。

「そうね! 最強になれるファッションを教えてあげるわ!」

「愛される媚びの売り方とか? あとは口説き方も!」

 サキュバスとインキュバスの言葉に、ティララは少しホッとした。

 あんまり変なことじゃなさそう。
 でも、本当に勉強したいことは違うんだよね……。
 もっと人に役立つようなことができるようになりたいんだけどな。

 しかし、せっかく許しを得た家庭教師だ。
 こんな些細なことで文句は言えない。
 不満に思いながらも、自分を納得させる。

 すると、インキュバスがチョンとティララの眉間を押した。

「姫さん、不満は口に出さなきゃ伝わらないぜ?」

 ティララはハッとする。意図せず顔に出ていたらしい。

「……あ、ごめんなさい。そんなんじゃなくて……」

 モゴモゴと口ごもるティララを見てサキュバスが笑った。

「あのね、姫様? 嫌なことは我慢するんじゃなくて、上手に伝えるのよ? 困りごとの芽は小さい内に刈り取らなくちゃ!」

「そうそう、それができれば強くなれるぜ? 姫さん、強くなる勉強したいんだろ?」

 インキュバスに指摘され、ティララはオズオズと頷いた。

 サキュバスは苦笑いする。

「じゃ、私のまねをしてみて?」

 サキュバスは両手を組んで、ジッとインキュバスを見つめた。
 そして上目遣いで瞳を潤ませ、小さく首をかしげてみせる。

「……おにいちゃん、おねがい、アタシの望みを叶えて?」

 インキュバスは笑って、サキュバスを大げさに抱きしめてみせる。

「おお! 妹よ! お前のためなら世界も手に入れてやるぜ!!」

 ティララはコントのようなふたりのやりとりを見て思わず笑った。
 明るい顔になったティララを見て、インキュバスも笑う。

「ほら、姫さん。笑ったほうが断然強いぜ? まずはサキュバスのまねしてみろよ」

 インキュバスに促されるまま、ティララサキュバスをまねた。

 とても些細な不満だ。
 そんなことを伝えれば嫌われるのではないかとドキドキしながら、小さな両手を胸の前で組んでインキュバスを見上げる。
 すみれ色の瞳がウルウルと濡れる。

「わたしね、おぎょうぎとかのべんきょうもしたいの……。あとは、おてつだいようせいたちにプレゼントあげたいの。おりょうりのべんきょうとかもおしえてくれるかなぁ?」

 コテリ。小首をかしげるとオパール色の髪が光を放ってサラリと揺れた。

「「はうぅ!!」」

 サキュバスとインキュバスは膝をついて胸を押さえる。

「姫様、さすがよ! 才能あるわ!! 将来サキュバスになりなさいよ!!」

「俺、料理得意だぜ! まずは今俺が使ってる料理本をプレゼントするぜ!」

 インキュバスはパチンと指を鳴らした。
 そこに現れた本は人族の間で流行っているもので、『恋しい人を魅了する愛の秘薬クッキング』という題名だ。

 ティララはパパラパラとめくってみた。
 ハーブ等を使って作るクッキーが用途別に載っている。
 あわせて簡単な魔法陣も載っていた。
 錬金術とまではいかないが、まじないの一種を覚えられそうだ。

 これで、家事妖精たちにクッキーを焼いてあげられそう!
 パパにあげたら喜んでくれるかな?

「ありがとう! インキュバス」

「やだ、アタシだってお裁縫は得意よ!? 刺繍とか編み物だってプレゼントになるわ!!」

「バーカ! ブラウニーに身に付けるもの渡したらいなくなるだろ?」

「妖精はブラウニーだけじゃないでしょ!? 魔物だってプレゼント貰ったら嬉しいわ!!」

 ギャイギャイ言い合うふたりを見て、ティララはクスクスと笑う。

 そっか、こんなふうにお願いしていいんだ……。

 前世のティララは、小さな不満を伝えるのが苦手だった。
 些細なことなら人の手を煩わせて嫌われるより、我慢して自分で解決したほうが良いと思っていた。

「ふたりともありがと!」

 ティララは晴れやかな顔で笑った。

 インキュバスたちは、ホッとした。
 ティララはモンスターたちと違い、本音をむき出して表現しない。
 激しく自己主張したのは、スライムが殺されそうになったときだけだ。
 いつもは相手の顔色を窺っていて、コブリンにすら配慮する。
 そんなところを少し心配していた。

「上手にできたわね。姫様」

「どんどん実戦で使えるようになろうぜ」

 サキュバスとインキュバスの言葉に、ティララは「はい!」と元気いっぱい返事した。

 時計を見ればもう昼前になっていた。昼食用の服装に着替えるのだ。

「さて、カーバングルって最強の防具を手に入れた姫さんに、今使える最強の武器を伝授しなきゃな」

 インキュバスとサキュバスは顔を見合わせて頷く。

「さあ! やるわよ!!」
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