冷血帝王の愛娘はチートな錬金術師でした~崖っぷちな運命のはずが、ラスボスパパともふもふ師匠に愛されすぎているようです~

17 聖獣カーバンクル


 隣では、ティララの削った石のカスをスラピが美味しそうに食べている。

 どんどん石を削ってくると、まるで動物のような形をした薄い桜色の石が現れた。 ウサギのように耳が長く、リスのように大きな尻尾。
 首の下に盛り上がった部分と、尖った耳と尻尾の先端が濃い桃色に色づいている。
 額にダイヤ型の赤いルビーのような石がある。瞳と思われる部分は閉じられている。

 ティララは石の粉を払うように、フッと息を吹きかけた。
 すると、ピクリと耳が動いた。
 ティララはビックリしてジッと見つめた。
 濡れたピンクの鼻先がヒクヒクと動いたかと思うと、ブワリと毛が膨らんで瞼が上がる。
 真っ赤な瞳がティララを見つめた。そして、小さく小首をかしげる。

「まま……?」

 ピンク色の小さな生き物はティララを見てそう言った。

 ティララは息を呑んだ。

 これって、これって石から生まれるという伝説の……。

 ティララは思わず目をこする。
 さっきまで【ミラクルストーン:?】と表示されていたはずなのに、今度は【カーバングル:守護聖獣】と表示されていた。

「カーバングル!?」

 思わず声を上げると、ピンク色の生き物は尻尾を振った。

「うん! ボクはカーバングル。幸せを運ぶ守護聖獣さ。キミがママ? ママでしょ?」

「……え……わたし?」

 ティララが困っていると、スラピがピィピィと鳴く。

「わたしがママなの? いしからほりだしたから?」

 ティララが問えば、スラピとカーバングルはコクコクと頷いた。

「ママ、ママ、ボクに名前をつけて!」

 ティララはうーんと考える。

「額の赤い石がまるでピジョンブラッドみたいから、ルビーの『ルゥ』はどう?」

「ルゥ!! ボクはルゥ!!」

 そう叫ぶと、ルゥはピョンと飛び上がりティララの肩に乗っかった。
 そしてフサフサの尻尾をティララの首に巻き付ける。

 聖獣や魔物たちが尻尾を触らせるのは珍しい。信頼の証しだ。

「ルゥ! くすぐったい!」

「ママ、くすぐったい!」

 ふたりでクスクスと笑い合う。
 スラピがボヨンボヨンと跳ねて、魔宝石図鑑を見るように鳴く。

 ティララはパラパラと魔宝石図鑑をめくった。
 中に注釈としてカーバングルの項目がある。

「カーバングル……ミラクルストーンからまれに掘りだされる。特殊聖獣。カーバングルを得た者は、生涯の守護を得る……。最高クラスのレア聖獣」

 ティララはカーバングルの項目を読んでから、ティララは目を瞬せた。
 ルゥはクルリとティララの首を一周回った。

「すごいよ! すごい! ママはすごい! ボクが生まれた! ママはすごい!」

 ルゥがご機嫌に答えて、ティララは思わず笑ってしまった。

「私は全然すごくないよ。生まれてきてくれたルゥがすごいんだよ! こんなに可愛くて、強い聖獣いないもの」

「そう! ボク最高! 強くて可愛いよ! 掘り出したママも最高!!」

 エッヘンとルゥがティララの肩で威張る。
 スラピは同意するようにプルンと揺れた。

 ティララはルゥの体に顔を寄せる。
 もふもふとした桃色の毛皮は春の風の匂いがした。

「あったかくて、きもちいい~! もふもふきもちいい~!」

 ティララはムギュッとルゥの尻尾を抱きしめた。

 ルゥは小さな手でティララの頭を抱きしめる。

「ママ、きもちいいー!」

 二人はフフフと笑うと、スラピも幸せそうにフルルと揺れる。

 ちょうどそこでヘアのドアがノックされた。
 インキュバスとサキュバスがやってきたのだ。ふたりは、昨夜ティララの教育係に任命されていた。

「うぉ! それカーバングル!?」

「やだぁ! ほんものぉ?」

 インキュバスとサキュバスが駆け寄って、ぶしつけにカーバングルに手を伸ばした。

 その瞬間、カーバングルの毛がブワリと広がって赤い光がティララとルゥを包んだ。
 光に触れた途端、激しい音とともにインキュバスとサキュバスはバチンと弾かれた。

 赤い光に触れた指先から、シュウシュウと煙が立っている。

「ちょ! いったぁぁぁい! なにこれ! 火傷!?」

「マジ勘弁、跡残ったらどうするんだよ!? サイアク!!」

 指先をフウフウと吹きながら、インキュバスたちは文句を言った。

 ティララは慌てる。

「ごめんね! だいじょぶ?」

 ティララは軟膏を持ってインキュバスたちに駆け寄る。
 もうカーバングルは赤い光を収めていた。
 エヴァンから与えられた魔法の軟膏をインキュバスとサキュバスの火傷に塗ってやる。

「ルゥ、この人たちは悪い人じゃないの。攻撃しちゃダメ」

 ティララがルゥに言い聞かせる。

「悪い人じゃない?」

「うん、味方!」

「わかった!」

 ルゥはコクリと頷く。

「ルゥがこうげきして、ほんとにごめんなさい!」

 オロオロとするティララを見てサキュバスは安心させるように笑った。

「大丈夫よ、姫様。それにしても、カーバングルを眷属にするなんて、やるわねー!」

「今の光線はカーバングルの障壁(バリア)だろ? ほんとに守られてんだ。カーバングルも守られてるやつも初めて見た」

「カーバングルは最強の守護聖獣よ、姫様、やったわね!」

 サキュバスたちは自分のことのように喜ぶ。

「ありがと」

 ティララがはにかんで笑うと、サキュバスが身をよじる。

「んー! 可愛い!」

「ほら、姫さん愛でてないで、勉強だろ?」

 インキュバスがサキュバスに突っ込んだ。
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