契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 槙野が祖父に向かってそんな風に言うから、美冬も思っていることを言う。
「悔しいけど、私も尊敬してるわ」

「さっきの追加します。意地っ張りなようでいて、素直なところも可愛い」
「そうか……」

 そうなのだ。
 最初に祖父からのあれほどの突飛な話がなかったら、今、こうして槙野とここにはいなかっただろう。

 こうして繋がれている手も、美冬は嫌じゃない。
 堂々と祖父の前で言ってくれていることは、嬉しくて、照れてしまう。

 祖父はふふっと笑った。
「うん。美冬、知っているか? 狼というのは一生に一匹しか(つが)わないんだ」

 唐突に祖父が言い出したことには驚いたけれど、槙野が黒狼と呼ばれている、と教えてくれたのは祖父なのだった。

「一生に、一匹?」
「とても愛情深い生き物でな。(つがい)が死ぬともう片方も死んでしまうようなこともあるらしい。一生にたった一人。黒狼なんて呼ばれるのは伊達ではなかったな」

 それを聞いた槙野は軽く息を吐いて、美冬の手をぎゅっと繋ぎ直す。

 そして、祖父を真っ直ぐに見つめた。
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