契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 けれど、その相手が槙野ではいけないのだろうか。

 美冬には今、恋愛する気持ちの余裕はない。
 誰かに恋したり、その人に気持ちや時間を持っていかれたり、そんな余裕はないのだ。

 今後、そのために婚活する時間を作るくらいなら、会社のことを考えていたい。

「冷たい、とか女子っぽくないって思われても構いません。恋愛なんてする余裕私にはないんです」
「余裕……」

「その時間があったら会社のことを考えたいの。槙野さんだって事情があると言ったわ」

 いつ見ても自信満々な槙野の表情が、少しだけ揺らいで見えた。
「悪い……俺の事情にお前を巻き込むのはどうかと……」

 少なくとも浮き立っていた。ここにこうして座って槙野の話を聞くまでは。

 好みではないと言われて、契約婚であるはずなのに、事情もあると言っていたのに、槙野がすでに後悔しているような雰囲気だったとしても今さらやめる気は美冬にはない。

 美冬は少しだけ、切ないような気持ちになった気がした。

 一瞬俯いて、ギュッと美冬は手のひらを握る。
 この契約婚の目的を思い返すのだ。
< 38 / 325 >

この作品をシェア

pagetop