契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 怖い、と顔に書いてある。
 まるで街で輩に絡まれた、か弱い女性のようなのだが。
 そんな反応するか?

 しかし、コンペの際に顔を合わせていて、身分は明らかなのだから、と槙野は受付に近寄っていった。おそらくはあの時片倉に言われた企画書を持って来たのだろうと思ったから。

「企画書? 早いな」
 そう話しかけると彼女は零れそうに大きな瞳でじいっと槙野を見てこくこくと頷く。

 まるで小動物を追い詰めているような気持ちになるのはなぜだろうか。
「俺が見てやるよ」

 せっかく持ってきた企画書である。
 槙野がそう言うと、椿美冬は書類をぎゅうっと抱きしめて、毛を逆立てたネコのような表情になった。

 あまりにも警戒されてやっと理由が分かった。椿美冬は槙野の正体を知らない。

 それにしてもおびえ過ぎじゃないのだろうかと思うが、槙野も自分がそこそこ迫力のある見た目だということは理解はしている。
 そんなにおびえられたらこっちがへこむ。

「そんな顔するか……あー、だな。この前はクローズドのコンペだったか」
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