契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 だからぎゅっとスーツを握った美冬の手元を見ていたのだ。

 そこへ小さく聞こえた声。
「……待って……」
「なに?」
 緩く髪をかきあげた槙野は美冬を見る。

 すると、美冬はキッと顔を上げた。
「するわ……」
「は?」

(するって、何を?)
「するわって言ったのよ。契約婚、する」
「お前……なに考えて……っ」

 気持ちなんてないくせに。
 槙野のことが苦手で怖いくせに。

「自分が言ったのよ! 責任とってもらうから」

 槙野はチッと舌打ちをするのを止められなかったのだけれど、華奢な美冬を思う存分抱きしめるのを止めることもできなかった。

 大人しく腕の中に納まる美冬はいざ抱きしめてしまうと、もっと欲しくなった。

「全くお前は……。覚えてろよ」

 だから思うさま唇を重ねて、奪うようにキスをした。
もう二度とこんな機会はないかもしれないと思ったら、なおさら自分の衝動を止める事なんてできなかった。

 思ったよりも甘くて柔らかい唇だった。
ふんわりとして柔らかい身体は抱きしめるときゅっと自分の中に納まる。
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