契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「いや、亡くなってるから」

「そっか……。狼じゃ飼い慣らせないわ」
 最後の一言は美冬としては心の中でつぶやいたつもりだったので、とても小さな声で槙野の耳には届いていなかったらしい。

「え? 何?」
「なんでも……」
「酔っ払ってんなお前。大将、お会計してタクシー呼んでくれ」

──酔ってないもん。

 ただ、美冬はずっとコンペの為に仕事を頑張っていたことは間違いなくて、その後のリテイクの企画書の作成も頑張っていたことは間違いない。

 慣れない仕事で多少疲労はあったかもしれないし、考えなければいけないことが山積みになっていたこともあったかもしれない。

 祖父に槙野を会わせて気に入ってもらえたようでもあり、少し気が抜けたのも事実だ。

 そんなことを考えながら、美冬はいつの間にかタクシーに乗せられていて、槙野にもたれて眠ってしまっていた。

 けれど、うとうとした頭の中で、胸元に抱き寄せられた時の心地よさとか頼ってもいいんだという安心感とか、グリーン系の槙野のパフュームの香りがいい香りで、気分よく目を閉じたような覚えはあった。
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