契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 たくさん食べて、たくさん飲んで、楽しかったら笑って、槙野に偉そうとか感じ悪いとか面と向かって言ってくるような人は意外といないものだ。

 そんなことすら、美冬にはなぜか腹も立たない。
 小動物みたいだからだろうか。
 小さくて白くてぴょんぴょんしていて、くりんと大きな瞳でじっと見てきたりする。

 一緒にいてもさすがに経営者なだけのことはあり、美冬は頭の回転も早く、会話に困るようなこともない。
 意外と話していて楽しい。

 帰りのタクシーの中ではふわん、と寄りかかってくるので、胸元にきゅっと抱いたら、甘えるように頭を擦り寄せてきた。

 契約なのに。
 契約だからこそ今日は美冬の祖父のところに挨拶に行ったのに、あんな風に甘えられたら、誤解してしまいそうになる。

 それでも、槙野は美冬を手離すつもりは一切なかった。
 自分ばかりがどんどん美冬を好きになっていってしまって、美冬に気持ちがないのが少しだけ切ない。

 タクシーの中ですっかり眠ってしまった美冬を抱き上げて部屋まで連れていった。

 そっとベッドに寝かせて、ジャケットを脱がせて、靴をぬがせても、起きないにいたっては大丈夫か、こいつ?と槙野はちょっと不安になったものである。
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