天才パイロットの激情は溢れ出したら止まらない~痺れるくらいに愛を刻んで~
 素直にうなずいた彼に、里帆は「えらいね」と優しく微笑む。

 そんなやりとりをしていると、少年の母親らしき女性がやってきた。
 小さな赤ちゃんを抱いているから、走る息子を追いかけられなかったんだろう。

「すみません。急に走り出してしまって」
「いえ、大丈夫ですよ」

 里帆は母親に向かってそう言ってから、もう一度少年と向き合う。

「ターミナルビルはとっても広いから、お母さんと赤ちゃんが迷子になってさみしい思いをしないように、ちゃんと近くにいてあげてね」
「わかった!」

 力いっぱいうなずいた少年を見て、里帆は笑みをこぼした。
 そのやわらかい表情に、愛おしさが込み上げてきた。

「ありがとうございました」とお礼を言って去っていく親子を見送りながら、隣にいる里帆の手を強く握った。

「翔さん?」

 里帆は少し照れた様子でこちらを見上げる。

「はじめて里帆に会ったときのことを思い出してた」
「はじめてって、パリでひったくりにあったときのことですか?」
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