スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
「あ、そうですよね。少し考え事をしていて……」
私は赤らんだ顔を見られないように答えるのが精一杯だった。
「何かあったんですか?」
私は誤魔化すように言葉を紡ぐ。
「ええと明日、バレエ団から呼び出しを受けて────」
「ああ、もしかして怪我の進捗ですかね。もうギブスも取れて、あとはリハビリに励んでいく予定ですから。カルテの方もバレエ団ようにお作りしますので、あとで渡しますね」
「ありがとうございます」
ひとりぼっちだと思っていたが、私は蓮見先生のおかげで助けられていた。
けれど──そんな蓮見先生の心遣いも虚しく。
翌日、私はバレエ団にて退団を言い渡された。
『あなたには才能があった。でも、この足じゃ、これからここでやっていくのは難しいの。これから毎年優秀な人材も入ってくるのに、あなたは指を咥えて待っていられる?』
私はそう言われて返す言葉もなかった。
前には優秀な先輩、後ろにはこれから伸びていく新人たち。
きっと私は今以上に絶望するに違いない。
答えられなかった私にバレエ団は幾ばくかの退団金と、そして日本で活躍するつもりならばと何人かのツテを紹介された。
そして、私のパリでの夢は本当の本当に潰えた。
私はそのまま当てもなく歩いた。
まだ歩行もうまく出来ないため、松葉杖をついて。
気づけばよく知る場所にいた。
ここパリで唯一頼れる人の近く──入院していた病院だった。
私は駐車場付近のベンチに腰を下ろし、遠くを見ていた。
冷たかった風が今では少しずつ暖かくなり、心地よい天候だった。
「────あれ? 瑠璃川さん?」
優しく暖かい人の声が聞こえる。
「…………蓮見、先生」
ようやく絞り出した声は掠れていた。
「一体どうされたんですか? 今日はバレエ団のところへ行くって昨日仰ってましたけど……」
蓮見先生は目を瞬かせ、私の隣に腰掛ける。
私はぼんやりとした頭で口を開いた。