スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
それからというものの、ギプスが取れてからは私蓮見先生と共にリハビリに励んだ。
怪我をしてからは2週間ほど入院しなければならなかったが、その間にも電話でバレエ団の方には事故にあったことを伝えてあった。
そして怪我が治ればリハビリに励むということも。
退院をした翌日には直接団の方へ赴いて説明もした。
バレエ団の仲間や関係者は皆一様に心配してくれた。
だがそれと同時に同情の視線を感じ、私は悔しさを覚えることとなった。
当たり前だ。
現役のバレエダンサーの命ともいえる足が壊れてしまったのだから。
内心、この子はもうだめだと思っているに違いない。
そんなネガティヴな思いを抱えながらも、私はリハビリをする。
「瑠璃川さん、ギプスが取れて数日が経ちましたけどお痛みとかはどうですか?」
「……そうですね…………力を入れると少し痛みを感じます。あと、なんか自分のものじゃないみたいな違和感が」
動かそうとはするものの、思い通りに動かない体がもどかしい。
私は悔しさと虚しさをを覚え、下唇を噛んだ。
私は1人だった。
ここパリでは家族とも気軽に会えない。
怪我をして一番そばにいて欲しいはずの人が今は誰もいない。
友人や同僚はいたが、やはり言葉の壁というものはネックで本当に心を許せる友達は日本にいるだけだ。
日本人ダンサーもいることはいたが、友達になる前に私たちはライバルだった。
それでもよかった。
私にはバレエがあったのだから。
それだけ私はバレエだけを一途に、ひたむきに励んできたのだ。
「瑠璃川さん、大丈夫ですか? 唇を噛むと血が出てしまいますよ」
蓮見先生は心配げに顔を覗き込む。
はっ、とした私は思わず顔を赤めた。
──顔が近すぎる。
整った顔がいきなりそばにくるだけで、私はどきどきしてしまう。
無意識なのか、天然なのか。