冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 小走りで向かうと、なんとか濡れずに店の入り口にたどり着く。

 時刻は予約よりも少し前だ。スマートフォンの画面に映る自分を見ながら髪型を軽く整えて、店の扉を開けた。

 鈴の音が響き、受付にいた女性の店員がにこりと笑う。


「いらっしゃいませ。おひとり様ですか」

「十九時に予約している久我です」

「かしこまりました。窓際の席にご案内をいたします。お時間にはまだ余裕がありますし、お連れ様がいらっしゃいましたら、コースを始めさせていただきますので、お声がけください」


 磨きぬかれた大きなガラス窓から、明かりが灯り始める都心の街頭が見える。

 まだ、椿さんは来ていないんだ。

 スマートフォンの電源を入れると、ちょうど彼から返信が来ていた。


【今、どこにいる】


 さっぱりとした短文に、素早く答える。


【予約してくれたお店に、先に入ったよ。窓際の席に案内をされたところ】


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