冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
既読がついた途端、電話がかかってきた。通話ボタンを押したとき、いつもとは違う焦った声がスピーカー越しに届く。
『藍。予約した店って、なんだ』
「え? 椿さんが昼にメールをくれたお店よ? ホテルの近くにあるイタリアン。ちゃんと久我でコースの予約が入っていたけど」
噛み合わない会話に眉を寄せた次の瞬間、視界に思わぬ人物が映った。
グレージュの半袖サマーニットに黒いスキニーパンツ姿の男性は、待ち望んでいた椿さんではない。
「やぁ、藍。来てくれて良かった」
「宇一さん……!?」
それは、間違いなく最低元彼の向坂 宇一である。
どうしてここにいるの?
通話が繋がったままだということも忘れて動きを停止していると、彼はうっすらと笑みを浮かべながら続けた。
「SNSのアカウントは変えたようだけど、メールのアドレスは変わっていなかったんだな」
「どういう意味?」
「昼のメールを見たから、ここに来たんだろ?」
まさか、宛先が不明のメールは宇一さんからの連絡だったの?