冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
すると、彼が目を丸くする。
「藍、薔薇を生けたのか?」
「そうよ? 花束でしょう?」
「あれはエディブルフラワーだ。観賞用じゃない」
とんでもない勘違いに、声を上げた。
「嘘! ごめんなさい。舞い上がって、ちゃんと見ていなかったわ」
「藍は花でも食べられる方が嬉しいだろ」
「ひ、人を食いしんぼうみたいに……!」
そのとき、椿さんが吹き出した。ハンドルに腕を乗せ、顔をうずめて笑う姿に、肩の力が抜ける。
ああ、椿さんが笑ってくれている。良かった。
気づけば、無意識に涙が頬を伝っていた。それを見た彼は、戸惑いながら指で雫を拭う。焦っている表情が珍しい。
「悪い。馬鹿にしたつもりはないんだ」
「ううん、安心しただけなの。もう、喧嘩してすれ違ったまま話せないかもしれないと思っていたから」
返答にほっとしたらしい椿さんは、私が落ち着くまで背中を撫でていてくれた。
子どもをあやすような仕草が優しくて、気持ちが和らいでいく。
「どうして、瑠璃川さんと会っていたのか聞いてもいい……?」