冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
あの頃の私は、今思い出しても苦しくなるほど黒歴史だ。
自分に自信がなくて、夢も希望もなくて、大好きだった人に裏切られて、まさに人生のどん底。
刻まれた肉割れは、決して消えない過去の傷である。
自然に目を逸らされて、胸が痛む。
「やっぱり、醜いよね。私の体」
「いや……藍が急に服をまくるから。肌をじろじろ見るのはまずいだろ」
気を使ってくれたらしい。
すぐにこちらへ向き直った彼は、はっきり答えた。
「醜くない。それは、藍がつらい過去を乗り越えてきた証だ」
水面に石が投げ込まれたように、心が震える。
人の目があるところで着替えをするのも嫌になるほどのコンプレックスを、全て受け入れてくれるんだ。
つらい過去を乗り越えてきた証なんて言ってくれる人は、他にいなかった。
「恥じる必要はない。藍は、俺が出会ってきた中で一番綺麗だよ」
心臓が大きく音を立てる。