冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
頭に流れ込む五年前の記憶が、昨日のことのように思い出される。
たくさんの想いが詰まった名刺が、時を超えてふたりを繋ぐ。
「どうしてって……椿さんがくれたのよ? ニューヨークのオペラハウスの前で」
目を見開く彼は、黙って話を聞いている。
「五年前の冬、路地で男の人たちに絡まれて怪しい薬を売りつけられそうになったところを、バイクで通りかかった椿さんが助けてくれたの。見ず知らずの私を後ろに乗せて、目的地まで送ってくれた」
そのとき、椿さんは、はっと瞳を揺らしたけれど、すぐに眉を寄せた。
「そういや、たしかに観光客を送り届けた記憶はあるけど、藍……だったのか?」
「覚えていなくても無理はないわ。ほら」
おもむろにシャツの裾をプリーツスカートから出して、まくりあげる。
ギョッとする彼は、やがて私の肌を見てまばたきをした。
「ひどい肉割れでしょう。お腹だけじゃなくて、太ももにもあるの。もともと太っていたけど、宇一さんと別れたショックでさらに太って、急激な体重増加が原因で痩せた後も痕が残っちゃった」