冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 五年前の出来事が、一瞬頭をよぎる。

 あのときは、私の考案したレシピを自分のものだと主張されて、泣き寝入りをするしかなかった。それとまた同じような現象が起きている現実が受け入れられない。

 情報が漏れているわけがないが、見た目だけではなく味の構成まで同じなのは不可解だ。

 しかし、宇一さんが私のアイディアを盗んだ証拠がないため、アンジュに押しかけて追求することはできない。

 このままコンテストに出品したら、私がアンジュの新作ケーキを盗作したことになるの?

 代替え案を考えなければいけないとわかってはいるのに、思考が切り替わる前に、動揺がおさまらない。

 なんとか催事場の打ち合わせはやりきって、夕方にはレジデンスに着いた。

 鈍く音を立てる心臓を抑え、スーツのままでリビングの机に向かう。スケッチブックを取り出して様々なケーキを描いていくが、全くイメージが膨らまない。

 ダメだ。こんなんじゃ、一次審査も通らない。全て元々のケーキのデザインに寄ってしまうし、一新しようとするとありきたりなケーキになる。

 こんなの、私の好きなケーキじゃない。私が愛を込めて作ったスイーツは、いつも消えていく。


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