冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


「機材の手配は済んでいます。テーブルと椅子は、空室から移動しましょう」

「お待ちいただく間、まずはラウンジの席に案内をして、ドリンクやスイーツを出してください。コーヒーは、エスプレッソとブレンドの用意があります」


 色々なところから久我さんを呼ぶ声がして、その全てに的確に応えている。

 その鮮やかな手腕は、東京のランコントルホテルに来て一週間とは思えない。以前、出張で来たことがあったにしろ、常人にはできないだろう。

 彼はフロアを歩く足が止まらない。少し視線を離すと、数秒後には違う従業員と話している。

 デキるという噂ばかり聞いていたけれど、実際に目の前で見ると鳥肌が立つほどの存在感だ。

 トラブルに動揺していた従業員も、久我さんに任せれば大丈夫だという安心が表情からうかがえた。

 全てを見届けるのは出来なかったが、無事にミーティングが始まり、大きな問題もなく進んだと連絡があった。

 すごいな。久我さんが仕事をしている姿を一目見られるって夢みたい。ずっと、あんな風に働いてきたのね。

 会話ができる立場になれなくても、同じ職場で誇りを持って働けていることが私の幸せだ。

 話をしたいなんて、贅沢な願いだったかも。


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