冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
ひとり暮らしのマンションに帰ってから、昔使っていたスマートフォンを取り出した。
傷心旅行の後にすぐ買い替えたが、久我さんとの繋がりがある品に思えて捨てられなかった。
画面にいくつものヒビが入って割れている。名刺も手元にあるし、ニューヨークでの出来事は幻想じゃない。
それでも、夢を見過ぎた。記憶の中で、憧れの王子様が墨を被って、大切な思い出が色褪せる。ぽっかりと胸に穴が空いた気分になり、寂しさと虚しさが交互に押し寄せた。
翌日職場に行くと、目を輝かせた女性の上司たちに囲まれる。
「真宮さん、昨日のバータイムの納品はどうだった? 椿さんに会えた?」
「さぞ良い思いをしたんでしょうね。詳しく聞かせなさいよ」
明るく声をかけてくれる優しさに、なんて答えれば良いか分からず、表情がこわばってしまう。
「昨日はありがとうございました。でも、私、全く覚えられてなかったみたいで……もう、理想を追いかけるのはやめたんです」
すると、沈む私をよそに、彼女たちはにんまりと笑う。
「なに言ってるの、隠さなくていいのに。上手くいったんでしょう? 今朝、椿さんがカフェを訪ねてきたわよ」