灰に汚れた六月に、世界を
明日のために十年もの間、桐子は逃亡生活を続け、力を身につけていた。十年かけて身につけたのは、普通の人間では得られない力である。それは呪術だ。

「大丈夫だよ、復讐をするんでしょ?この世界に」

「俺たち魔物はみんなあんたの味方だ。あんたは気にせずこの街の人間を、いや世界中の人間を呪い殺せばいい」

呪術師である桐子に協力する魔物たちが口々に言い、桐子の顔に少し表情が現れる。だがその僅かな表情の変化に気付く者はいない。

十年前の六月三十日、桐子の全てが変わった。



この世界は残酷で、幸せを手にする人間よりも圧倒的に不幸になる人間の方が多い。全ての人が理想の生き方をすることは叶わず、そのために汚い罪や欲は生まれていく。そのことを、桐子はよくわかっているつもりだった。

「桐子、手合わせしてくれよ」

「いいよ、悟」

お昼を食べていた桐子の隣に、明るく髪を染めた男子が座る。桐子と同じ呪術師の安倍悟(あべのさとる)だ。
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