“好き”じゃない勝ち・“好き”の負け
でも、外で抱きつくのはさすがに恥ずかしいし、誰か……、例えば弟や妹に見つかったら多分終わる。


必死で我慢したけど、やっぱり抑えられない。

そう考えるまで3秒くらいだった。


僕はうつむいたままの文乃の手首を掴んで、目の前にある自分の家へ入る。


玄関の鍵を閉め、一言「ごめん」と言って文乃を抱き締めた。



「えっ、礼……?」

「ごめん」


申し訳ない気持ちと幸せな気持ちが交わって、よく分からない感情になる。


少ししてから僕は文乃を解放し、離れた。

文乃の表情は、混乱しているものだった。


そりゃ、そうだよね……。



「ごめん、文乃」


下を向いていると、少し間があってから、声が聞こえてきた。
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