Hello,僕の初恋
「ミカがさ、花音ちゃんちの音楽部屋行ったんだって?」
「うん。先輩喜んでた」
ライブハウスまでの道を、並んで歩く。
杖をついているから、手を繋げないのがもどかしいけれど。
歩道の脇に植えられた桜の木は、先端を紅色に染めている。
道路を渡った先には梅の木が植えられていて、そちらははらはらと花びらを散らしていた。
「いいなぁ。俺も行きたい」
「く、来る……?」
ノゾムくんが来たいというので、どきどきしながらそう言った。
きっと今、爪の先まで真っ赤だ。
「いいの?」
「うん」
細かい日時なんて決めていないけれど、私たちは小さな約束を交わす。
あの部屋を見せたらノゾムくん喜ぶだろうなって、単純な動機だったんだけど。
よく考えてみれば、男の子、しかも恋人をうちに誘うなんてちょっと、いやかなり大胆な提案をしたのかななんて、今さら思った。
ノゾムくんの、杖を突いていない方、左手の固定された指先が私の指に触れる。
「繋げないね」
そう言われて、私はこくりと頷いた。
春になった。
散りはじめの梅の花と、咲きかけの桜の花が視界をかすめる。
空は青、風は生ぬるい。
私の心に季節が追いついたんだなあって、しみじみと感じる。
私たちは少しぎこちない会話を交わしながら、ライブハウスへと向かった。