Kiss Me Kitty! ~年下猫系男子とゆる甘アパート生活~
築四十年の『つぼみ荘』は、キッチンとシャワーユニットを除くと五帖という狭いワンルームである。
ここへ越してきて三か月になる比菜子は、この空間をなんとも器用に活用していた。
背の高いベッド下や突っ張り棒での吊り下げを駆使した〝見せる収納術〟は、リアルな生活感に溢れている。
壁沿いの突っ張り棒には無数のS字フックが引っ掛けられ、バッグやポーチ、ベルトにヘアゴムなど穴が空いている物はなんでも吊る下げられている。
それは目で見て楽しく、温かみが感じられるレイアウトである。
比菜子はこの日も隠れ家のような部屋の真ん中で、通帳を見て浮かれていた。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん。じゅうまん……うふふふ」
折り畳みテーブルに向かって座椅子に座り、直角のそれを背中とお尻の重心移動でゆらゆらさせながら、印字された残高に指を滑らせて桁を何度も数える。
(もうほんとに最高! 引っ越してよかった! 極限まで家賃を下げれば、こんなに貯金できるのね)
彼女はここでの暮らしの最大の利点にすっかり虜になっていた。