籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「じゃあキスしてもいいっていうこと?」
「どうぞ!」

 キスくらいで動揺などしたくない。おそらく目の前にいる彼は私なんかよりも経験豊富なのだろう。
私が余裕のある演技をしたところで、どうせ箱入り娘であることは違いないし男性経験は同年代に比べて圧倒的に少ない。

 どうぞ、と言ったが今にも口から心臓が飛び出しそうなほどに緊張していた。

まだ肌寒かったはずなのに、じっとりと背中に変な汗が出る。
成人している男女がキスくらいなんだって言うのだ。
そう思っている“はず”なのに既に声を発することが出来ずにいる。
和穂さんは私の頬を片手で包み込んだ。
男らしい大きな手のひらの温度差が伝わってくる。私の体温が相当高くなっていることを間接的に伝えてくる。

「どうぞ、と言う割には余裕が無さそうだけど」
「…」

 和穂さんから笑みが消える。無音の部屋のせいでソファが微かに軋む音が耳に残った。
ぎゅうっと強く目を閉じると、彼が更に近づく気配がした。

「っ…」

ふわり、優しく唇が触れた。
 深いキスではなく、ほんの少し触れただけのまるで学生同士がするようなキスに拍子抜けをした。
それが顔に出ていたのか和穂さんはふっと小さく笑った。
瞼を開けてまだ近い距離にいる彼を見上げた。

「もしかして足りない?」
「いいえ!!」

 全力でかぶりを振るが、拍子抜けしたのは事実だしもっと深いキスをされると思っていたから彼にそれを見透かされているようで恥ずかしくなり視線を落とした。

「じゃあ、おやすみ。来月からは秘書としてもよろしく」
「はい…」

彼は軽いキスをしただけで去っていった。
しばらくその場から動けなかったのはいうまでもない。
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