僕らの恋愛事情【完】 ~S・S更新中~
「ちょっと、祐子!何しているの?―――制服、こんなにしちゃって…」
もう少し気を使って捨てたらよかったと後悔するけど、もう遅い。
母さんは、その変わり果てた制服を見て、悲しそうに眉を寄せていた。
かあさんにとって、俺がこの制服を切り裂くなんて、尋常じゃない事だったんだろう。
「もう、要らないしさ」
「だからって…こんなことしなくても…」
うん、そうだよね…。その通りだと思う。
切った後にネクタイに触れて思い出したんだ。
これを初めて手にしたときの嬉しさを。
これだけは男女共通だったから、服も男用だったらどんなに良かったのにって思ってたけど、ネクタイを毎朝欠かさず結び目を締め、ディンプルの形を綺麗に整えていたものだった。
それが、スーツを着て仕事に向かうサラリーマンになれたみたいで、凄く嬉しかったんだ。
そういう未来が、俺にはないって自覚していたから、なおさらその日課が尊く思えていた。
父さんが帰って来て、俺は謝った。
せっかく買ってもらったものを、こんな風にしてしまってごめんなさいと。
「それはいいんだ、祐子。でも、君の心情が心配だ。――――なにか、あったのか?」
父さんなら、そう言ってくれると思っていた。
明らかに最近の俺はおかしかった。不登校になったかと思えば、幼馴染や友達と遊ぶこともなくなっていた。
それに、卒業式が終わって制服がこのザマなら、誰だって心配になるだろう。
だから、これを機に打ち明けたいと思ったんだ。
大学生活が始まったら一人暮らしが始まる。
俺は女を捨てて、長年憧れていた男として生きたいと思ってた。
勿論戸籍上の話ではなく、「見た目」を変えたいだけだけど。
ただ、実家に帰った時、娘が息子になっていたら驚くだろうなと思って、いま反応を試したかったんだ。
その反応次第では、もうここに帰ってこれないかも知れないから…。