エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
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「じゃあ、また何か違和感などあればすぐ来てください」
「はい。ありがとうございました」
私は丁寧に先生に頭を下げて診察室を出た。その先の待合室で座っていた彼の元へ駆け寄っていく。
「ごめんね、朔。付き添ってもらって」
「いや、いい」
そう言いながら朔は長椅子から腰を上げる。一月ももうすぐ終わりとなる土曜日。朔は休みの日に私の診察に付き添うのが当たり前となっていた。最初は平日も半休を取って付き添うと言い出して大変だった。さすがに仕事に支障が出そうだし、私ひとりで行けるのでやめてもらったけど、朔の休みの時になるべく行くようにはしている。どうにも彼はまだ私がひとりで出歩くのが心配で堪らないらしい。どうにかそれも年を明けてから近所の買い物はひとりで行ってもいい許可が下りた。
救急車で運ばれた私だけど、診断は肩の脱臼と脳震盪だった。肩は子供を庇って転んだ時に脱臼し、その際に軽く頭を打った衝撃で意識を失った。幸いにも脳にダメージはなく、肩の脱臼も軽いものだった。
不幸中の幸いはこれ以外もあり、バイクは私たちに当たる時にブレーキをかけて、かなり減速できたらしい。男の子も無事で道路に手をついて軽く擦り傷を負っただけで済んだ。
私は救急で運ばれた大学病院から自宅近くのクリニックに移り、肩のリハビリをしている。
「どうだった?」
「だいぶよくなってるって。このままだとリハビリも間隔あけていいみたい」
「よかった」
「私は治癒能力高いみたい」
「いいことだ」
「朔があれやこれや世話焼いてくれたからだよ。ありがとう」
「ただ飯作っただけ」
「掃除も洗濯もしてくれたじゃない」
頭を打ったこともあり最初の三日だけ検査入院をして、あとは自宅療養で済んだ。朔の仕事もちょうど山場を過ぎて、彼は年内休みをとって私の世話に徹してくれた。とはいえ、左肩以外は動くのでやろうと思えば簡単な家事はできるのに、朔は私に絶対安静を申しつけて、甲斐甲斐しく連日栄養のある料理を作った。おかげで身体は健康的になり、今は肩の装具も取れて、順調に回復している。
「ケーキ買って帰ろう。朔の誕生日何もできなかったし」
そう、年末の彼の誕生日を祝う空気ではなく、私はベッドの上で朔に「誕生日おめでとう」と言っただけで終わったのだ。
告白はどさくさに紛れて終えてしまったけど、ちゃんと彼の誕生日を祝いたい。遅れてしまった分、盛大に祝うと決めていた。
「そんなの、いいんだよ。第一祝う歳でもないし」
「でも、私が食べたいの」
「じゃあ、好きなの買ってよし」
「やった!あと、『egao』のパンも」
「好きだなー、あそこのパン。いいよ、帰り寄ろう」
そう言いながら手を繋いで病院を後にした。
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