エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
帰り道で夕飯の材料とケーキを買った。
もうこの部屋には私たちふたりだけだ。京子さんは神崎さんのマンションに戻った。
私が怪我をしてもう少し残ろうかと言われたけど、断った。京子さんの人生なのだから、早く神崎さんと暮らしたほうがいい。私には朔がいると言うと、京子さんは「そうね」と嬉しそうに微笑んだ。
朔は京子さんの再婚に特別反対はしなかった。ただ、その相手が私と付き合っていると思った男で、年明けに私の見舞いがてらうちに来た神崎さんと対面した朔は複雑な顔をしていた。勘違いして取り乱したことがよほど心に残って居た堪れないみたい。
「ねぇ、本当にシチューでよかったの?」
「うん、好きだし、うまいし」
朔は白いスープ皿にいっぱい入れたシチューをおいしそうに食べる。私が作ると言い張ったので、きっと朔はこれを要望したのだろう。私の安定メニューはカレーとシチューだ。それに比べて朔のほうが料理の腕が上がってきている。私のためにキッチンに立つことが多くなって、いろいろと作るうちにハマってきたみたい。
でも、私もいつか愛妻弁当を作って驚かせてやるんだから。
料理教室に来月から通う予定だ。料理は苦手でも愛する旦那様に作ってあげたい夢はある。
密かに野望を抱いて、食後ケーキを冷蔵庫から出す。いちごのデコレーションケーキ。ちゃんと『朔くん、誕生日おめでとう』というチョコプレートもつけてもらった。この時の朔はめちゃくちゃ恥ずかしそうだったけど、今蝋燭に火をつけてハッピーバースデーを歌ったら、満更でもなさそうだ。
ケーキを食べた頃に私は自分の部屋から紙袋を持ってくる。昨日、京子さんと一緒に買いに行った長財布が入っている。リビングに戻ると、朔はソファーに移動して食後のコーヒーをゆっくり飲んでいた。
「朔、これ、プレゼント」
私が隣に腰掛けてもじもじしながら差し出したら、朔は予想どおり困ったふうに眉を八の字にする。
「わざわざいいのに」
「バイト代が入ったら買おうと思ってたから。でも、怪我して買いに行くのが遅くなってごめんね」
「母さんのところで働いたのってこのため?」
「まぁ、最初はね。あと私が社会復帰できるまで快復したら朔も喜んでくれるかなぁって。仕事も楽しくなって、やってよかったなと思う」
私が事故に遭ってから仕事は休んでいる。また怪我がよくなれば来てほしいと京子さんや神崎さんに言われている。ありがたいことだ。
箱を開けて中身の財布を見たところで、朔が固まった。
「き、気に入らなかった?」
「いや、すごく嬉しいよ。高かっただろ?」
「うん、まぁ。でも、財布って必需品だから」
「ありがとう」
眦を下げて笑う顔を見たら、的外れのプレゼントではなかったみたい。バイト代全額投入してよかった。
事故のせいで用意するのが遅くなったけど、ちゃんと理想どおりのものを用意できた。
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