エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
体力の衰えに嘆きながらも、どんどん重さを増してきた瞼を閉じる。
少しだけ昼寝したら、ちゃんとする。
そう自分に言い訳をして睡魔に完全に身を委ねた。




次に目が覚めた瞬間、いい匂いがした。電気が灯されたリビングのソファーから身を起こす。肩からブランケットがずり落ちた。
これ……。
私のじゃないとぼんやりした頭で周囲を見回すと、アイランドキッチンに朔がエプロン姿で立っていて一気に眠気眼が開眼した。
「は、朔!?」
「ただいま」
「お、おかえりっ……て、ごはんできてる!?」
「うん、今ちょうどできた」
電気鍋の蓋を開けてお玉で混ぜる朔。いい匂いがこちらまでやってくる。立ち上がってふわふわのブランケットを畳みながら、朔のほうへ歩み寄る。
「ブランケット、ありがとう」
「別に。あ、でも、さすがにこれから寒くなるから風邪ひくぞ。暖房つけていいからな」
「うん。帰り早かったね」
「今日仕事早めに終われたから」
「そう、なんだ……あの、ごめん。私が晩御飯作ろうと思ってたのに」
「いや、魚焼いただけ。あとは鍋に全部ぶち込んだだけだから。最近の家電って優秀だよな。あ、どれだけ食べるかわからないから、自分でよそって」
「あ、うん」
スープ皿を手渡されて電気鍋から湯気を放つミネストローネをお玉で掬う。
いつも一人前を食べきれないから罪悪感が襲ってくる。実家でも自分で盛り付けていた。両親は「それだけでいいの?」と毎回心配してきたけど、それにすら自分が悪いことをしている気がして胸が詰まった。
昼ご飯を食べて寝ていただけだったし、おなかはそこまで減っていない。だから、スープ皿に半分と、白身魚の切り身と生野菜のサラダを小さめの皿に取る。一人前の半分ほどの量でも私にとっては満腹サイズなのだ。朔は黒いエプロンを外して、自分用に料理を盛り付けて席に運ぶ。私の食べる量については親から聞いているのか、何も言わなかった。
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