エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない



次の週の土曜日、昼の時間帯にパーティーは開かれる。パーティーといっても、社長の別荘で行われるホームパーティーらしい。本当に自分の会社の社員と普段から付き合いのある外部の人間だけ。手土産はワインにした。社長が好きらしく、朔に言われるまま店で購入したら十万以上して、落とさないようにビクビクしながら持って帰った。
「大丈夫か?」
「へ、平気」
助手席で胃を押さえながら答える。顔が死んでいるだろうから、説得力がない自覚はある。朝からメイクを入念にして、この日のために買った新しいワンピースを着た。薬指には朔からもらったダイヤの指輪がキラキラと眩く光っている。
「私、ちゃんと妻っぽい?」
「どこから見ても」
何度もした質問を朔はうんざりすることなく答えてくれる。昨日は入念に髪もトリートメントしたし、ドラッグストアで購入したパックもした。美容のために早く寝ようとしたけど緊張して寝不足。コンディション的にはせっかくの努力もプラマイゼロだ。
「大丈夫か?」
「う、うん、行こう」
いつまでもビビっていては進まない。別荘近くの駐車場に車を停めて、私たちは徒歩で坂道を歩く。ゆっくりペースなのに息が上がってくる。日頃の運動不足にさらにヒールの靴が追い打ちをかけてくる。朔は荷物を持ってくれているのに、余裕の表情だ。
男女差はあるにせよ、昔はこれくらい平気だったはず。本気で体力をつけないと人間としてまずい気がする。
「あ、工藤くーん」
坂を上り切ったところで後ろから声をかけられた。振り返ると、五十代の男性と、二十代女性と思われるふたりが数メートル後ろからこちらに手を振っている。
「里見。お前も来てたのか」
朔が少し驚いた声を出す。女性は私たちの前まで来ると、えっへんと胸を張った。
「私が前担当者だし、所長も招待されていたから便乗した」
「それが通るのはお前くらいだよ」
半ば呆れた声と眼差しを向ける朔。
私は場の空気に取り残されて、内心おどおどしていたら、朔が「同僚の里見美麗と所長の谷川さん」とすぐに紹介してくれた。
ふたりは私を見ると優しく眦を下げる。
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