エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
翌朝までの時間は長かった。ベッドに入っても眠れず、朔が苦しんでいないだろうかと悶々しては寝返りを打つ。昔の私もそうだった。健康優良児の朔が熱を出した日は心配で眠れなかった。だから、朝早く起きて朔の家に行き、朔がいつもどおり元気になっているのを見てほっとする。
だから、今回も朝日と共にベッドから抜け出し、リビングで朔を待ち受けることにした。でも、リビングに行ったら普通に朔がソファーに座って昨日買ったゼリーを食べているから目が引ん剝く。
「朔!」
「おはよう」
「ね、熱は!?」
「そう言うと思った」
ははっと軽く笑って、朔はパジャマの襟元から手を突っ込んで体温計を取り出す。ちょうど計り終えたところだったらしい。
「三十六度七分」
「俺の場合これで平熱だから」
そういう朔の顔色は昨日よりもいい。怠そうな気配もない。
「大体一晩で治るんだよ、俺は」
「うんうん、そうだった」
嬉しさのあまりバカみたいに頷いた。
よかった、本当によかった。
どうしてもマイナスな想像に偏ってしまっていたから、安堵で肩の力が抜ける。
「ちょっと早いけど、朝飯にする?」
そこで、朔がソファーから立ち上がるからはっと我に返った。急いで彼をソファーに押し戻す。
「朔は今日も念のため休養ね。私が作る」
「大丈夫だって」
「だめ、ぶり返すと仕事にも響くし厄介でしょ?何か食べたいものある?」
無理矢理押し通す私に朔は観念した様子でソファーの背に凭れた。
「じゃあ、またうどんがいいな。今度は明太子とサワークリーム入れようぜ」
「それって……おいしいの?」
「うまいって。試しに食ってみろよ」
なんて彼が言うので、また冷凍のうどんを茹でて今度は朔の指導のもと、明太子とサワークリームをうどんに混ぜ、刻み海苔をトッピングした。
恐る恐る食べてみて、私は思わず口を押さえる。
「い、意外といける」
「だろ」
明太子の辛みとサワークリームがいい感じに調和してうどんとよく絡み合ってくる。パスタでも合う食材だから、うどんも適応できるらしい。
「カロリーすごそうだけど」
「たまにはいいんだよ。うまいものに罪はない」
そう言って、朔はおいしそうに口に入れた麺を咀嚼していく。
その幸せそうな顔が幼く見えて、可愛くて。
この人のこと、本当に大切にしたい。胸の奥からあたたかい気持ちが溢れて全体を満たす。
私、朔のこと好きだ。
昔も今も。ううん、昔よりもっと好き。

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