エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
朔が熱を出した時は、釜玉うどんが決まって出ていた。朔の祖母がいつも作ってくれて、熱でぼやっとしていても朔はちゃんと食べた。そして、お見舞いに来た私までごちそうになっていた。特別なものが使われていたわけではないけど、あたたかくて優しい味だった。
「朔のおばあちゃんみたいにできたかわからないけどさ。食べられるだけ食べて」
「いただきます」
朔が手を合わせてから箸を持ち、湯気が出るうどんを掬い上げてふうふうと息をかける。そして、ひとくち大きく啜った。もぐもぐと咀嚼する姿を私は固唾を呑んで見守る。
「おいしい」
「ほんと?」
「うん」
「よかった」
ほっと胸を撫で下ろす。簡単だからまずくなる確率は低いとはいえ、自分の料理を食べてもらうのは緊張する。
「ばあちゃん思い出すな」
懐かしそうに目を細めてうどんを食べる朔に私も昔のことを思い出す。
朔のおばあちゃん、優しかったなぁ。
私のことも実の孫みたいに可愛がってくれた。「朔のことよろしくね」と朔のいないところでよく言われたものだ。だから、亡くなった時は悲しくて大泣きした。朔は泣かずに私の隣に立っていた。だけど、朔の悲しみが十分伝わってきて、さらに涙が止まらなかった。
うどんを綺麗に平らげた朔は軽くシャワーを浴びに行く。私はその間に自分も軽く食事を済ませた。シャワーから上がってきた朔はパジャマ姿だった。いつも私のほうが先に寝て、起きるのも遅いから朔のパジャマ姿が妙に新鮮だ。
私は冷たい水とスポーツドリンク、あと冷却シートを腕に抱えて朔の後ろをついていく。
「ねぇ、他に何か欲しいものない?」
「大丈夫。寝るだけだし」
そうなんだけど、もし寝ている間に熱が上がってきたらどうしよう。風邪薬は飲んだけど、もしものことを考えるとひとりで寝かすのが心配になってくる。その時、ふっと頭上で笑う気配がした。見上げると、朔の口の端がニヤリと上がった。
「何?一緒に寝る気か?」
「え!?ち、ちちちちちっ!」
違うと言いきれなくてどもるだけとなる。もごもごと口を動かしていると、ポンと頭に朔の手が置かれた。
「もしも風邪が移るとだめだし、柚も自分の部屋行きな。俺も寝る」
「じゃあ……何かあったら携帯鳴らして」
「わかった。おやすみ」
私の優しく頭を撫でて朔は自分の部屋へと入っていった。私は撫でられた頭頂部を押さえて、赤くなっているであろう顔を俯かせた。


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