エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
部屋に入りデスクのところまで行くとその横の本棚に目が止まる。
重々しい太い本が並ぶ中で、それだけが異質で浮いていた。吸い寄せられるように本棚に近寄り、手を伸ばす。透明の瓶の中に見覚えのある貝殻が入っていた。
「これ、この前あげたやつ……」
それだけじゃない、底のほうにも見覚えのある貝殻がある。小さい時、夏休みに帰省した朔と一緒に遊んで、でも、帰ってしまう時が寂しくて。一緒に行った海で拾った貝殻を朔にあげていた。その年、一番綺麗で大きなものを選んで。
忘れかけていた記憶が色や形が違う貝殻に呼び起こされて鮮明に蘇ってくる。
……全部とっておいてたんだ。
受け取る時なんて然して興味なさそうな顔してたのに。でも、いらないとも言わずちゃんともらってくれた。
捨てないで持っていてくれたことは驚きだけど、律儀なところが彼らしいとも思う。
「朔、優しいもんな」
私が「今年一番綺麗なやつだよ!」と大層に渡すものだから、きっと捨てるに捨てられなかったんだ。
カラフルな貝殻が詰まった瓶はちょっとしたお洒落なオブジェみたいで可愛い。私たちの夏の思い出がぎゅっと瓶に詰められているかのよう。
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