エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
「朔、今日は遅くなるらしくて」
「そっか、じゃあふたりで先に食べちゃおう!手洗ってくるねー」
軽快なステップで京子さんはリビングから出ていく。私の母と同い年だから五十を超えているのに、身は軽く、見た目も若々しい。活力が漲っている。ああいうバイタリティー溢れるところが昔から尊敬していたし、自分もそうなりたいと憧れを持っていた。
食卓の準備をしていたら、部屋着に着替えた京子さんがやってきて、「私も手伝うわ」とフランスパンを切ってくれる。シチューをよそって、惣菜を温めてふたりで食卓につく。
今日あったことを話しながら食べて、京子さんがさっそく二杯目のシチューをお代わりした。でも、すぐに口をつけない。湯気をたてるシチューにじっと視線を落とす。その空気に私までもがそのシチューを凝視する。いたって普通のシチューを見ながら、彼女の中で何かが思案され、発言するかどうか迷っていることは伝わってきた。
「柚ちゃん」
「は、はい」
「朔とはうまくやっていけそう?」
「……」
「え、何?まずい感じ?あいつ全然愛想がないから!?」
「い、いや、そういうわけではなくて!」
今にも朔に電話しそうな勢いの京子さんを制止する。
「朔はよくしてくれています!」
「ほんと?それならいいけど……『でも』って言葉が続きそう顔してるわね」
図星をつかれて言葉が詰まる。でも、正直には話せない。
「朔の母親で話しづらいかもしれないけど、柚ちゃんは私の大事な親友の娘さんだからね。悩みがあるなら話して、すっきりできたらいいと思うわ」
一緒に暮らし始めてから、私が何か悩んでいるような気がしていたらしい。そんなに顔に出ていた自分に恥ずかしく思いつつも、気づいてくれていたことは素直に嬉しかった。誰にも相談できることではないから。
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