客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
真梨子の痛み
 真梨子は二杯目のカクテルを注文する。

「……夫は医者でね、忙しくてなかなか家に帰って来ないの。そのことはわかってたから、家族からは反対された。でも好きだったから押し切って結婚したの。すごく優しい人、いい人。でも結婚してから私と彼の違いに気が付いた。私は子どもが欲しいのに、彼にはその願望がなかったの。子どもがいたら、今の仕事のやり方に私が文句を言うって思ったみたいね。だから、そんなことはないって言ったわ」
「……返事は?」
「納得してくれた。でもね、その話をした時は既に結婚四年目。私たちが性交渉をしなくなって二年が過ぎていた。もう今更出来ないって言われたの。私は子どもが欲しいし、性欲だってずっと我慢してきた。それならって人工受精も提案したけど、忙しいから無理って言われたわ」
「そんな……」
「だから諦めて二人でいる生活を選んだの。とは言っても、家にほとんど一人なんだけど……。結婚した友達は子どもの話ばかり。妊娠したって聞くと悔しくなる。独身の子は生活を謳歌してるし……あなたの言う通りよ。私は誰にも話せず、一人でずっと抱えてきた……」

 真梨子の瞳から涙が幾つも溢れ、止まらなくなる。二葉は居ても立っても居られず、嗚咽を堪える彼女のことを抱きしめた。

 カバンからハンカチを取り出して、真梨子に差し出すと、彼女は口元に当てて声を押し殺す。

 真梨子の苦しみ、悲しみ、辛さの全てを理解することは無理かもしれないが、その想いを少しでも軽くしてあげたい。

 そう思っても言葉が見つからず、何を言っても彼女を癒すことはできない気がした。
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