「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
「ーなるほど」

私の話を聞いた後も、謎の人は特に感想を言うこともなく、静かにうなずくだけだった。私はその反応に少し気恥ずかしさを感じた。余計なことを話した気がして、私は慌ててベンチから立ち上がった。


「あの、では私はこれで…」

「…世の中に偶然はない」

「はい?」

「世の中に偶然はない。だから、君が記憶を失ったのも、必ず何かわけがあるはずだ。君はこれから、ゆっくりそれを探していけばいいと思う」


突然何を言い出すのかと思えば…でも、私はすぐ気づいた。この人は私を慰めてくれているんだ。突然未知の世界で目を覚まし、今でも不安でどうしようもない、私の心を。

それに気づくと、私は少し微笑んだ。二人の間の空気が少し和らいだ気がして、きっとこの人はそこまで難しい人ではないかも…と思えてきた。私は頭を下げ、本当に別れの挨拶をした。


「…今日はお気遣いありがとうございました。その…そろそろ帰ります」


そう言って歩き出した私は、すぐ手首を引っ張られそのまま止まってしまった。私を止めたのはもちろん、ベンチにまだ座っていたあの謎の人だ。彼は私の手首を掴んだまま、ずっと何も言わない。やっぱりよく分からない人だったわー私は手首を自分の方に引っ張りながら、質問した。もうこの状況が分からなさすぎて、早く抜けたいと思った。


「あの、言いたいことがないなら放してもらえませんか?本当に帰りますので」

「…単刀直入に話そう」


そう言って、彼がゆっくり席から立ち上がる。足を運び私のすぐ前に来た彼は、その高い目線から私を見下ろした。

そして謎の人は、本当に単刀直入にこう言った。


「私は、君とセックスしたい」
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