「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
「セックスしたい」
確かにそう言った。いっそ同じ意味でも「君と寝たい」くらいだったらまだ誤解する余地があったのだろうけど、もうこれは逃げ場がない。
「…はい?」
それでもやはりこう聞くしかなかった。もしかしたら、私は自分が思う以上に酔っているのか?だからこんな幻聴を…と思った時、彼がもう一回言った。
「君とセックスしたい」
「……」
「答えは?」
「いや、いやいやいや、いくらなんでも。なんで?どうして?」
この頭痛はお酒のせいなのか、それともこの状況のせいなのか。私は頭を抱え、この状況を理解するため必死に努力した。そんな私を見て、彼がもう一回ドライな声で言った。
「理由など大事ではない。ただしたいだけ」
(うわ…本当にこんなこと言う人がいるんだ)
あまりにも堂々すぎる態度に私は一瞬「もしかしておかしいのは自分なのか?この世界では元々こんなもん?」とも考えた。いやでも、やっぱり何かが違う気がする。
(なによ、この人。最低…)
ちょっとは良い人って思ったのに、傲慢でわがまますぎる。結局良いのは顔だけじゃない!いや、もちろん脱いだらもっと良いかも知れないけど…。お酒のパワーもあり、私は腕を組み、この会社の幹部らしき人に同じく堂々と言った。こうなったら、意地でも負けたくなかった。
「そんなにしたいしたいって言うなら、私もその気にさせてみたらどうです?」
私の挑発に、謎の人がクビをかしげる。
「『その気』?」
「そうです、まさか、自分だけいい気分になって、私はどうでもいいって思ってます?」
「そうではない」
「なら、私をその気にさせてみなさいよ。私もしたくなったら、そのときはちゃんとしますから」
私の挑発を聞いても、反応がない。ほらね、こっちが強く出ると結局黙っちゃうくせに。勝った気持ちになった私はニヤニヤしながら、「では、さよなら」と別れの言葉を投げた。もうこれで本当にお別れのつもりだった。
ーだった、けど。
「…?何するんですか?」
気づいたら私は彼に手を引っ張られ、公園のもっと奥の方へ向かっていた。もう十分遅い時間で、公園に人影も見えない。静かな公園の端っこにある茂みの所まで来た彼が、足を止め周りを確認した。
「ここならいいか」
その後、私は地面に座った。正確には座らせた。焦った私が顔を上げると、彼も早速私の前に座った。
「な、何が?」
「その気にさせろって言っただろ。だからその気にさせるだけ」
「え?ちょ、ちょっとここ外…!!」