「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
「今日も嘘をつくのか?」

「…はい?」

「以前もベロベロに酔っていたのに、一人で帰れるって言っただろう。いらない意地を張るのが癖なら、辞めた方がいいぞ。ためにならないから」

「はい?別に…そういうわけ、では…」

(本当、あの言い方なんとかならないの?どこまで上から目線なの?社長だから何言っても許されると思ってるわけ?!)


心の中ではこう叫んでも、口に出すことはできない。今はただ歯を食いしばり、全身を襲う痛みに悲鳴を上げないよう我慢するだけ。悔しいけど、指摘された通り、私は意地を張っていた。この社長の前で弱い姿を見せたくない。最後の最後まで自分がこの仕事に適していることを証明して、ギャフンと言わせたい。こんな状況でも、こう思っている自分自身がいた。

(情けない…)


情けない、そして悔しい。自分は思った以上に無力で、怖がりだった。先輩のサポートなんかなくても、うまくやっていけると思ったことも恥ずかしくて仕方がない。様々な感情が混ざり、私は何も言わずずっと下を見ていた。

しばらくして、私の前にずっと立っていた社長が膝を曲げ、私の前に座った。そして体を回し、私にこう言った。


「乗れ」

「…え?」

「動けないだろう。ここにずっといたらいつ奴らが戻ってくるか分からない。さっさとここから離れるのがいい」


言っていることは間違っていない。ただ、だからとはいえ「はい、よろしくです!」とすぐおんぶされるほどノリノリな性格ではない。私の戸惑いに気づいた彼が振り向いた。


「早く。おんぶが嫌なら、抱っこがいいのか?」

「え?いいえ!!」

「じゃあ早くしろ」

このままだと本当に抱っこされ運ばれそうだったので、私は素直に彼の提案を受け入れることにした。それでもすぐ身を任せることはできず、恐る恐る背中に手を乗せ、ゆっくり首に手を回した。私がちゃんと乗ったことを確認した社長はそのまま立ち上がった。体が浮くのを感じ、一瞬怖くなった私はギュッと腕に力を入れた。


「そこまで力入れなくても落ちない」

「あ…すみません…」


社長は又深く息を吸い、ゆっくり夜道を歩いた。そうやってある程度歩いた後、私はやっと体の緊張が少しほぐれるのを感じた。そして改めて、この人のことをじっくり考え直した。

一緒に夜を過ごした日、興奮して何度も爪痕を残した広い背中。社長室に呼ばれた時はあまりにもムカついて、二度と近寄りたくないと思ったけど…こうして又おんぶされることになるとは。やはり、物事「絶対」という言葉は軽々しく使ってはいけないだなーと、改めて思った。そして触れるとやっぱり気持ちよくて、広い背中であることは、間違いない。

社長は迷わず前へ進む。月明かりだけを頼りに、なんの迷いもなく、この山道をただ黙々と。その姿に、胸の奥から正体の分からない不思議な感情が芽生える。この気持ちが何なのか、今の私には説明することはできなかった。



「…どうやって私の居場所を知ったのですか?」

「君のタブレットを追跡した」

「追跡って…そんな正確にできるものでしたっけ…」
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