「私の為に、死んでくれませんか?」 ~君が私にキスしない理由~
「ーその後はもう言われるままあの人に付いて行って、気づいたらここにいました」
少年の話はここで終わった。正直な気持ちをいうと、私は話を聞く前より今の方がもっと混乱していた。結局、あの手紙を書かせてくれたのも、遺体のポケットに入れておいたのも、全部あの人であって…。ますますあの人の本意が見えなくなってきた。私の複雑な心境の変化に気づいたのか、少年が恐る恐る聞いた。
「あの、俺…余計な話をしましたか?」
「あ、いいえ…話してくれて、ありがとう。そして…ごめんなさい」
「…?どうしてお姉さんが俺に謝るんですか?」
「その、それは…」
君を助けることができなくて。
君の最後をきちんと見届けることができなくて。
君をここまで案内する役目をきちんと果たせなくて。
様々な言葉が喉の奥まで上がってくる。あの夜のことを思い出すだけで苦しくて、切なくて…激しい感情を声にすることができず、私は結局視線を逸してしまった。
優しい少年は何かを察したのか、それ以上私に何かを聞こうとはしなかった。代わりに、手にしていたチケットをギュッと握り、こう言った。
「あの人に、伝えてくれますか?感謝の気持ちを。」
「…はい。必ず伝えます」
ー「只今より、クルーズへの乗車案内を始めます。チケットをお持ちの方は指定の場所へお集まりください。繰り返します。チケットをお持ちの方はー」
ターミナル内に案内放送が流れる。私達はそれがもうお別れの合図であることをよく知っていた。少年は案内放送に言われたまま、脚を運び前へ進んだ。私もその後を追った。
船着き場ではもう人々が一列に並び、着々と乗車手続きが進められていた。少年は一瞬足を止め、振り向いた。そして優しい笑顔で、最後の挨拶の言葉を手向けた。
「ーでは、お姉さん。又、来世で」
その言葉に、心臓がドキッとする。悲しい感情がばれないよう、私は必死で笑顔を作った。最後だけは、笑顔で見送ってあげたかった。私の、最初の営業対象ー最初のお客様だから。
「うん。又、来世で」