俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました
「どうかしましたか? 」
ファイルを片手に、休憩スペースに顔を覗かせた作業療法士が、声を掛けて来た。
「……誰だ? 」
会話を遮られ、不快を露わにアミールは、彼を睨みつける。
「伊織っ!」
助かったとばかりに、駆け寄り、
私は彼の背中を押して、出口に向かう。
「大丈夫、もう済んだわ」
「伊織…… ?」
睨んでいた顔に、更に眉間に皺を寄せて、アミールはジロリッと睨みを効かせた。
「親しい、の、か? 」
隣にいる私に顔を向けると、質問する。
「もちろ……」
「お前よりは、な」
私が答えようとすると、伊織が横から口を挟んだ。
(兄貴分ですから、ね )
「いつから、だ?」
「長すぎて忘れた」
フッと不敵な笑みをアミールに向ける。
(物心着く前からだから、ね)
「た、大切なのか? 」
「当たり前だ」
自信満々に言い切る伊織に、ちょっと嬉しくなって、緊張が緩む。
(子供の頃から、一緒に居ますから)
「俺よりも、か?! 」
「比べようもないだろう 」
(兄と、好きな人です、から)
アミールは、グヌヌヌッーッ! と、唇をへの字に曲げ、ギリギリッと奥歯を噛み締め、今にも飼ってかかりそうだ。
「…… チッ 面倒くせーなっ! 」
伊織は舌打ちをすると、私に向かって掌を広げた。
「ん、今夜はお前の家に行く」
「…… わかった」
ポケットから、自宅の合い鍵を出して、広げた伊織の掌の上に置くと、チャリッと音をさせて、彼はそれを上着のポケットへしまった。
「お、お前……っ!! 」
鍵を指差して、青くなってアミールは口をパクパクさせながら、伊織の顔を睨んでいる。
煩せぇ、黙れ!! と、目で訴えて、伊織はアミールを冷ややかに睨みつけた。
私は、うゔっ…… っと唸りながら、伊織を威嚇しているアミールに視線を合わせる。
「仕事、18時に終わるから、その後なら会えるわ 」
「あ、あ、…… 」
まだ何か言いたそうに私を見つめていたが、小さく呟いてアミールは身を引いた。
「今夜……、 な 」
「大丈夫か? 」
ナースステーションに戻る途中、伊織が心配そうに顔を向ける。
「…… 話さないと…… ダメ、だよ、ね…… 」
逃げ出したい衝動と、全てを曝け出して、アミールに飛び込みたい想いが、ないまぜになる。
伊織には、アミールが子供達の父親だと話してある。
まあ、彼に会えば、瓜二つのアルとルルの父親が誰か一目瞭然だけど。
兄貴分だからね、妊娠発覚して、当たり前だけど誤魔化しきれなかった。
しかも双子だから、お腹の大きさが半端なくて、すぐバレた。
「…… バカだな」
一言そう言って、それ以上、私のした事を責める様な事はなかった。
今は、こうして、嫌な顔せずによく二人の面倒を見て、可愛がってくれる。
良い叔父さんだ。
相変わらず、私は頼りっぱなし。
「んー、考えるのはチビ達のことだな」
わかってる、と一回頷く。
「いつもありがとう。 あの子達のこと、宜しくね 」